里山リベラルアーツ 佐藤暁彦
流域思考をご存じだろうか。
恵那市は、20年前に旧恵那市と恵南5町村が合併した結果、木曽川、矢作川、そして土岐川(庄内川)という3つの大きな川の流域で構成されている。それぞれの川は市や県境を超え、水の集まる方向を定める分水嶺によって流域を形成している。それぞれの流域には異なる自然環境や経済・文化圏が息づいており、木曽川流域は「木」、土岐川は「土」、矢作川は「水」と象徴される。さらに、支流が入れ子状に形成する小流域に立てば、暮らしの中にも地域の個性や関係性の濃淡が感じられる。
流域という自然の摂理から見ると、行政区分では捉えきれない恵那市の姿がより鮮明になる。今や交通や情報の発達により、人間の認知活動は地理的制約を超えたと考えられがちだが、流域という視点で見れば、いまなお地域性や関係性に不思議なくらい符合する。このような視点は、生物学者・岸由二氏が提唱する「流域思考」に基づいている。もともとは行政区域を超えた水害対策から生まれた考え方だが、どこに暮らしていようと、谷や山が織りなす分水界に沿った水の流れという自然の節理の中で生きているという事実を思い起こさせる。
「流域が違えばわかりあえない」という話ではない。むしろ流域思考は、足元の大地を見つめ、違いを認識した上で、他地域との関係性を柔軟に編みなおす知恵となる。であれば、利害や環境が異なる地域同士が無理に一致団結するのではなく、違いを前提に、出会いと学びのある交流の場を大事にしたい。
流域は分断ではない。生態系同様、多様性は社会の均衡と強靭性を高め、持続可能性の礎となる。ゆるやかな交流の中に、豊かで対等な関係構築のヒントはある。
このように、恵那という地域は、地形や川、歴史や文化、地域社会の関係性といった多様な要素が絡み合い、単一の視点では捉えきれない。そんなとき学問は、複数のレンズとなって地域像を鮮明に映し出す。
自然科学は地形や水、人文科学は歴史や文化、社会科学は地域社会と流域の関係を読み解く。このような横断的な学びはリベラルアーツと呼ばれる。予測不可能で複雑で曖昧で変動性の高いVUCA時代。匿名で未検証のストーリーや、直情的な誹謗中傷、表面的で断片的な情報に溢れる時代だからこそ、リベラルアーツが育む、本質を見抜き考え抜く力が私たちを支えてくれる。
私は今、笠置で「里山リベラルアーツ」と名付けた小さな学びの場を始めている。ここでは流域思考のように、「本当にそうなのか」「なぜそうなのか」という問いを出発点に、自然・歴史・文化・社会を横断して理解を深め、対話を重ねていく。答えを急ぐのではなく、異なる視点が響き合うことで見えてくる広がりを大切にしたい。
何が正解かわからない、そんな時には里山リベラルアーツに気軽に立ち寄ってほしい。
♦編集後記
佐藤さんは横須賀生まれ横須賀育ち、音楽を長くされていた方に米作りを習いました。私は明智町に生まれ育ったのですが田んぼや畑をやってこなかったし、習うものでもないものという認識でした。こうした農との関わりに空白があったこと、もったいなかったなと思います。
その反面、農と季節に追われて私の畑はこの辺りではまず見ないジャングルと化しています。バランスを学びたいです。佐藤さんのラジオは里山を俯瞰したり、いろんな角度から考えたり仮説を立てたりしています。中のひとこそ面白いと思います。ぜひ聞いて欲しい。二人の声も落ち着きます。
【恵那山のふもとからの寄稿】は恵那、中津川に移住定住して下さった人々のなりわいに感謝したい、応援したいというおもいがあります。また、ここで産まれた人々、今は他の土地に根差し活躍している人々の紹介。スタートアップでこれからこんなことしていきたい!応援して欲しい!熱いおもいを伝える人々の場所としたいとスタートしました。 そんな私たちも応援して頂いています。この循環が大きくなってこの土地が豊かになりますように。次のクールの支援も始めました。シェアして頂けたら嬉しいです。
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