恵那山のふもとからの寄稿 | 第26巻 自然食の料理店「養殖リンネ」

寄稿

百姓料理人 小林裕幸


 水と空気の清らかな場所を求めて名古屋から東濃の地へ移住しまして、もう十年。あっという間の歳月でした。当初は恵那に住み、三郷の田んぼをお借りしてお米づくりを始めました。岩村の城下町で地域おこしの行事として結婚式を挙げていただいたことも。あの祝福の一日はずっと胸にあります。その後、東白川村にご縁を得て、自然農の田んぼと畑、放牧養鶏を中心に農的な暮らしを送っています。


 里山への移住を決意したきっかけは東日本大震災でした。津波の爪痕が残る荒涼とした土地をボランティアで回って痛感しました。この世にはお金では買えない大切なものがあると。そしてその買うことのできないものを守りたいという気持ちが沸々と湧いたのです。それは命めぐる自然の仕組みであり、人と人の温かな支え合いでした。自分や家族といった人間を含め、あらゆる生きものが精妙な命の循環の中にある世界。その中でただ誠実に生を送りたいと強く思ったのです。


 二年ほど前、中津川に自然食の料理店「養食リンネ」をオープンさせることができました。いただく命を慈しみ、身体を養う料理を創りたいとの想いを店名に込めました。自らの手でお世話したお米や野菜、卵などの農産物をよろこびの味に仕立てて提供する。里山移住を決意した時からの夢の一つでした。


 料理は素材の持ち味を最大限に引き出すことを第一として、和の出汁に発酵とスパイスを合わせています。味噌や醤油などの発酵調味料は自家製し、他にも伝統的な手法で作られた自然なものを用います。素材だけでなく、「さしすせそ」などの調味料も命の結晶。そのかがやきをさらに磨き上げた一皿を目指しています。


 振り返ってみると、今日まで人とのご縁に支えられてきました。住処も農地も料理店も、その土地の方々がご厚意から繋いでくださったものばかり。「里山で自給自足をしたい!」とはじめは意気込んでいましたが、今はもう自給自足という言葉は使う気になれません。自分一人だけで成し遂げられたことなど何一つありませんでした。お米づくり一つをとっても、先人たちが田んぼや周囲の環境を代々守り続けてくれたからこそ。ながいながい時を超えた大きな繋がりによって生かされている。それを感じない日はありません。


 いまの里山暮らしには深い満足感があります。日々、目に見えるもの、触れるものすべてに命を感じ、自然に愛しさの情が湧きます。自然農で田んぼや畑のお世話をしていると伝えると、それは大変でしょうと返されることがあります。が、大変さはまったくありません。この十年の間に、土や生きものたちが歩み寄ってきてくれていることを感じます。急激な変化を求めるのではなく、ゆっくり静かに、優しく手を入れていく。そうすると自ずから広がっていく世界があるように思います。農も料理も人との交わりも、一筋の心で丁寧に向かい合う。本当の豊かさとはこういうありようなのだろうと気づき始めています。

ゑなの結とは

私たちは恵那山のふもとでフリーペーパーを発行している任意団体です。本当の意味で“誰一人取り残されない”のは季節の移り変わりではないでしょうか。また美しい自然から、地域の強みや魅力を教えられているのは、私たちだとも感じています。 心を豊かにするこの地域のひとときを二十四節氣とともに発信。そしてこの地のスタートアップから、インタビューや寄稿を通したコンテンツは、恵那山の頂きより「ヤッホー!」と叫ぶように、多くの人々に届いたらいいなと思っています。
We are a voluntary organization that publishes free papers at the foot of Mt. Ena. Isn't it the change of seasons that truly means that no one is left behind? I also feel that we are the ones who are taught the strengths and charms of the region by the beautiful nature. We will transmit a moment of this region that enriches the mind with 24 seasons. And I hope that the content through interviews and contributions from startups in this area will reach as many people as possible like shouting "Yo-ho!" from the top of Mt. Ena.

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